【club guessing sequenceの存在定理の、κが可算の場合の数学ガール風解説が読みたいです】を書いた

放課後、いつも通り図書室に来てみるとテトラちゃんがなにやら難しい顔をして本とにらめっこしていた。
僕「今度は何を読んでいるの?」
テトラ「あ、先輩。…この前、ミルカ先輩がclub guessing sequence(CG列)の存在証明を教えて下さいましたよね」
僕「ああ、随分と前だけどね。μとκが正則基数でμ^+<κをみたすようなものならば、κ∩Cof(μ)上にCG列が存在する」
テトラ「あの、Cof(μ)ってなんですか?」
僕「ああ、共終数がμになる順序数からなるクラスだよ。」
テトラ「あ、そうなんですか。この本では違う表記になっていて…」
と言われてみた本の表紙にはS.Shelah Cardinal Arithmetic!
僕「いや、その本は最初に学ぶためのものとしては勧められないよ。そういえば、数年前に『数学』にサーベイが…」
ミルカ「ふぅん、CG列の存在証明ね。」
僕「うわっ」
いつもながら唐突な登場だ。
ミルカ「それでテトラは何を知りたかったの?」
テトラ「はい、先輩が証明してくださったときはμが非可算なことを仮定したじゃないですか。」
僕「そうだったね。その方が簡単だからまずそうしようと言ってたね」
テトラ「でも、定理はμが可算でも成り立つんですよね。それが気になっちゃって。」
それを聞いたミルカさんは天井を見て少し考えると言った。
ミルカ「そこまでならそんなに難しくない。でも場所を変えようか」
ふと周囲を見渡すと、瑞谷女史をはじめとするみんなの冷たい視線を感じる。

近くの教室に移動するとミルカさんはチョークをとって話し始める。

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まずそれぞれのβ∈κ∩Cof(ω)に対して、順序型ωなβの非有界部分集合C_βをとろうか。喜ぶ人もいるだろうから言っておくと、(C_β : β∈κ∩Cof(ω))を取る時点で選択公理が必要だ。
さて、κ∩Cof(ω)上にCG列がないと仮定しようか。すると、κのclub部分集合Dで、{β∈κ∩Cof(ω) : C_β⊆D}が非定常になるようなものが存在するわけだな。

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テトラ「ここで、μが非可算のときはC_β∩Dを新しい列として、同じことを繰り返しました。でも、βが可算のときは、βがDの極限だったとしてもC_β∩Dがβ上非有界とは限りません。空集合にだってなります」
ミルカ「そう。だから、ここでShelahはglue functionと読んでいたもの使う。そのページのglだよ。いろんな状況に対処するためにそこの定義には細かい細工がしてあるけれども、私たちの目的にははるかに単純なもので良い。」

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gl(C, D)を{sup(γ∩D) : min(D)<γ∈C}で定義しよう。意図としては、Dはκのclub部分集合、Cはκの部分集合で順序型はω。βをsup(C)としておこう。
この関数は下記の性質を持っている:
(i) gl(C, D)⊆D
(ii) βがDの極限点であるならば、gl(C, D)はΒの非有界部分集合。
(iii) gl(C, D)=CとC⊆Dは同値

このgl(C, D)をC∩Dの代わりに使うんだ。

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テトラ「はわわわ」
大声をあげたテトラちゃんをみるミルカさんと僕。
テトラ「この子たちはパラシュートをつけてるんですよ」
そう言うと、テトラちゃんはノートに絵を描き始める。
テトラ「Cの元の子たちγは持ち場で待機してるんですよ。そこにDがくると、μが非可算のときはγ∈Dのときだけ合格で、γ∉Dだと失格しちゃうんです。」
ミルカ「続けて」
テトラ「でも今度はパラシュート付きだから、γちゃんはゆっくりおちながらDの元を探して最初に見つかったところで止まるんです。」
僕「min(D)<γだから見つからなかったら失格ってことかな。」
ミルカ「そういうこと。そうやって探しにいくから、(ii)が成り立つ。」

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そして、全てのξ<ω_1に対して帰納的に(C^ξ_β : β∈κ∩Cof(ω))とD_ξを定義する。帰納法の仮定は、任意のβ∈κ∩Cof(ω)に対してC^ξ_βがβの非有界部分集合となっていることとD_ξはκのclub部分集合で、任意のη<ξに対してD_ξ⊆D_η。

まず、全てのβ∈κ∩Cof(ω)に対してC^0_β=C_βとし、またD_0をκより小さい極限順序数全体の集合とする。

帰納法の仮定を満たすようにD_ξと
(C^ξ_β : β∈κ∩Cof(ω))が定義されているとする。このとき、(C^ξ_β : β∈κ∩Cof(ω))はCG列ではないので、任意のβに対してC^ξ_β⊆D_{ξ+1}が成り立たないようなκのclub部分集合D_{ξ+1}が存在する。clubである限りD_{ξ+1}は小さくしても求められた性質を持ち続けるのでD_{ξ+1}⊆D_ξを仮定しても一般性を失わない。任意のβに対して、βがD_{ξ+1}の極限点であるときはC^{ξ+1}_β=C_β、そうでないときはC^{ξ+1}_β=gl(C_β, D_{ξ+1})とする。

ξが極限順序数だとするときは、D_ξ=∩_{η<ξ}D_ηとする。そして、任意のβに対して、βがD_ξの極限点ならばC^ξ_β=C_β、そうでないときはC^ξ_β=gl(C_β, D_ξ)とする。

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僕「つまり、D_ξが定義されたらそこからC^ξ_βを定義する方法はξが後続順序数でも極限順序数でも同じなのか。」
ミルカ「そう。でもこの方がイメージしやすい。」

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さて、ここでD=∩_{ξ<ω_1}D_ξとしよう。そしてβをDの極限点でありかつκ∩Cof(ω)の元となるようなものとする。ここで、示したいのはC^ξ_β=C^{ξ+1}_βとなるようなξ<ω_1が存在すること。

まず、これが示せたとして矛盾を出しておこうか。D⊆D_ξかつβはDの極限点なので、βはD_ξの極限点でもある。C^{ξ+1}_βの構成により、C^{ξ+1}_β=gl(C_β, D_{ξ+1})となる。glの性質からgl(C_β, D_{ξ+1})⊆D_{ξ+1}となり、C^ξ_β⊆D_{ξ+1}が言える。これはD_{ξ+1}の構成に矛盾する。

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僕「えーと、D_{ξ+1}の構成っていうのは…」
一足先にノートを遡っていたテトラちゃんがこたえる。
テトラ「これですよ、先輩。【このとき、(C^ξ_β : β∈κ∩Cof(ω))はCG列ではないので、任意のβに対してC^ξ_β⊆D_{ξ+1}が成り立たないようなκのclub部分集合D_{ξ+1}が存在する。】まさにD_{ξ+1}の取り方に反しているんですね」
ミルカ「そう、反例のはずが反例でないことを示すわけだ。」

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それじゃあC^ξ_β=C^{ξ+1}_βとなるようなξ<ω_1が存在することを証明しよう。
まず、最初に。(min(D_ξ) : ξ<ω_1)は非減少列で、βを上界にもつ。cf(β)=ωだからこの列は上昇し続けることはできずに途中でとまる。すなわち、ζ'<ω_1とδが存在して、任意のζ'≦ξ<ω_1にたいして、min(D_ξ)=δを満たす。

次に以下の補題を証明する。

補題: 任意のγ∈C_βに対して、以下を満たすようなζ_γ<ω_1が存在する:
任意のζ_γ≦ξ<ω_1に対して min(D_ξ)<γならば sup(γ∩D_ξ)=sup(γ∩D_{ζ_γ})

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テトラ「えっとえっと」
僕「落ち着いて。ひとつひとつ読んでいこう。任意のζ_γ≦ξ<ω_1が満たさないといけないのは【min(D_ξ)<γ ならば sup(γ∩D_ξ)=sup(γ∩D_{ζ_γ})】という条件だ。まず、min(D_ξ)<γってどういうことだろう。」
テトラ「D_ξは帰納的に定義されたκのclub部分集合でした。」
僕「うん。min(D_ξ)<γが満たされると、γ∩D_ξという集合にはどういう影響があるだろう。」
テトラ「γ∩D_ξはγより小さいD_ξの元全体だから。あっ、わかりました。min(D_ξ)<γはγ∩D_ξ≠∅と同値です。つまりsup(γ∩D_ξ)が計算できるってことですね。」
僕「そういうこと。だから、sup(γ∩D_ξ)が計算できるならそれはsup(γ∩D_{ζ_γ})と等しいってことを言っているわけ。」
テトラ「でもsup(γ∩D_{ζ_γ})はどうして計算できるんですか?」
ミルカ「(D_ξ : ξ<ω_1)はどんな性質を持つか」
僕「そうか、(D_ξ : ξ<ω_1)は下降列なんだ」
テトラ「どういうことですか?」
僕「D_{ξ+1}をとるときにはD_ξの部分集合であることを条件に入れているし、ξが極限のときはD_ξ=∩_{η<ξ}D_ηとしている。だから、任意のη<ξ<ω_1に対してD_ξ⊆D_ηが言えるんだよ。だから、ζ_γ≦ξという仮定からD_ξ⊆D_{ζ_γ}がいえる。ということは、γ∩D_ξが空でないならγ∩D_{ζ_γ}だって空じゃないんだ」
ミルカ「じゃあ、(sup(γ∩D_ξ) : γ<ω_1)はどんな列?」
テトラ「わかりました。(D_ξ : ξ<ω_1)は下降列だから、(sup(γ∩D_ξ) : γ<ω_1)は減少列になります。」
ミルカ「正確にはnon-increasing。」
僕「そして、順序数の非上昇列はどこかで止まっているということか!」
ミルカ「そう。だからζ_γが存在する。」
テトラ「補題が証明できました。」

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ここで、ζ=sup({ζ_γ : γ∈C_β}∪{ζ'})とする。すると、任意のζ≦ξ<ω_1に対してまずmin(C_ξ)=δが言える。だから、C^ξ_β=gl(C_β, D_ξ)={sup(γ∩D_ξ)}: min(D_ξ)<γ∈C_β}={sup(γ∩D_ξ)}: δ<γ∈C_β}。ところが、δ<γ∈C_βを満たす任意のγに対して、ξ≧ζ≧ζ_γから sup(γ∩D_ξ)=sup(γ∩D_ζ)が言える。すなわち、C^ξ_β={sup(γ∩D_ζ)}: δ<γ∈C_β}となる。
つまり、任意のζ≦ξ<ω_1に対してC^ξ_βをξに依存せずに記述できたことになる。だから、C^ξ_β=C^{ξ+1}_βも言える。

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ミルカ「これで一仕事おしまい」
テトラ「えっ、補題が証明できただけじゃ…」
僕「ほら、ここで補題が言えたら定理が言えることを示しているよ」
ノートの該当部分を指差しながら言うとテトラちゃんはうなずきながら答える。
テトラ「ああっ、そうでした。ごめんなさい」
ミルカさんは僕らが納得したのを確認すると座ってチョコレートを食べ始めた。テトラちゃんはノートを最初から読み返している。
テトラ「なんか大変でした」
ミルカ「そう?cf(μ)が非可算のときとの本質的な違いは最初から把握していたようだけど」
僕「パラシュート?」
ミルカ「そういうこと。パラシュートって例えは思いつかなかったけど。そこさえわかればあとは一緒。細かい調整をするだけ。」
僕「順序数って単純そうに見えるのに、いろんなことができるんだね。」
ミルカ「無限下降列がないというのはとても重要な性質だ。そのことはこの証明だけではなく、例えばTodorcevicの最小歩行理論では縦横無尽に使われている」
テトラ「あの、CG列の存在を証明しているのに、CG列は構成しないんですね」
ミルカ「そう、そしてそれは本質的。一つ一つのCG列は強制法で壊せる。でも全部壊すと基数まで崩れる」
テトラ「不思議ですね。自然界が微妙なバランスを保っているのと似ているんでしょうか」
ミルカ「どうだろうね。まあ、ZFCのモデルというのも人工的で無味乾燥かとも思えるけれども、わりとそうでもないのかもしれない。」
僕「あれ、そういえば、証明を始める前に『そこまでならそんなに難しくない』と言っていたよね。その先っていうのは何?」
ミルカ「C_β⊆Cof(>ω)って条件を付け加えることができるんだ。そして、その条件がついたCG列を使って、κ上の非定常イデアルをCof(ω)に制限したものが飽和にならないことを示したのがGitik and Shelah。それは私の知る限りもう少し厄介な証明になる」
僕「そういえば、『数学』のサーベイにそんなことが…」
エィエィ「ミルカたん!」
突然ドアの方から声が。
エィエィ「みんなも。さすがにその辺にしとかんと怒られるで。こんな遅くまで。」
ミルカ「そうだな、違う意味でも怒られそうだ」
テトラ「帰りましょう!」

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超力尽きた。いろいろ変だったり間違ってたりしてそうだけど、とりあえず晒す。