結城浩『数学ガール』

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

数学ガール (数学ガールシリーズ 1)

皆さん絶賛しているので読んでみました。いやー、すごい本でした。
こうやって、「数学をする人間」のことを描いてある本というのはかなり少ないのではないかという気がします。もちろん放浪の天才数学者エルデシュのような面白い本やよい啓蒙書はあるにしても、やっている数学の内容を書きつつそれを考えている人たちの日常も忘れていないものはなかなかないでしょう。
数ページを使ってほぼ数学のことを書き続けているにもかかわらず、それを喋っている人物たちのことが常に感じられるっていうのは稀有なことだと思います。それに、「僕」とミルカさんの間には、レベルの違いもあるけれどもスタイルの違いもくっきりとあるわけです。上位概念からエレガントに問題を解こうとするミルカさんと、ストレートな問題意識から一つ一つ難関を越えていこうとする「僕」という*1。教科書には出てきづらいそういう要素が自然に織り込まれているところがすばらしいと思います。
でも、「数学の本質はその自由性にある」の文脈での自由とはオイラーの自由とは違うように思うのですが。
それと、数学は厳密さを重視するというのはそのとおりなのですが、私たちはペアノの公理系を満たすような宇宙が存在しているのかさえ証明することはできないわけで、「僕」がテトラちゃんに対して第2章でやっているような指導を続けるのは怖い気が。厳密に言ってしまえば、私たちは自然数ってなにか、それが存在しているのかさえ知らないわけで。このあたりからどうにも概念的実在論が気になって仕方がなかったりするわけですが。

ふぅ、集合論につながるようなネタでこういう本が出ればいいのに(無理だって)。
誰かミルカさんにPCF理論語らせてやってください(だから…)。

*1:集合論者はここでどうしてもWoodinとShelahを思い浮かべてしまうわけですが