数学ガール風にclub guessingの存在定理を解説してみるテスト

なぜかミルカさんはともかく、「僕」やテトラちゃんまでKunenの第2章を読んでいるという謎な設定上ですが。長文注意。もう今日は疲れたので、細かい解説はまた後で。もしかしたらやらないかも(爆)。

vvvv

ミルカさんはこう切り出した。
「今回のカードにあったのはこういう問題だった」

\kappa\lambdaが共に正則基数であり、\kappa^+<\lambdaを満たすようなものとする。Sを \lambdaの定常部分集合で、すべての\alpha\in Sに対して\text{cf}(\alpha)=\kappaが成り立つようなものとする。このときに、列\langle C_\alpha : \alpha\in S\rangleで以下のような性質を持つものが存在することを示せ。

  • すべての\alpha\in Sに対して C_\alpha\alpha上で非有界
  • すべての\lambdaの閉非有界部分集合Dに対して、C_\alpha\subseteq Dとなるような\alpha\in Sが存在する。

「こんなことが本当に言えるんですか?閉非有界部分集合って言ってもたくさんありますし、どんなモデル上にいるのかもわからないのに」
「そう思うのは自然だ。だからこそ、こんなに簡単な証明が1980年代に入るまで見つからなかった」
「簡単?」
「そう。特に\kappaが非可算であるという仮定を置けば、あと必要なのは人よりちょっと忍耐深いことだけだ」
と言って、ミルカさんは少し微笑んだ。僕もテトラちゃんもその微笑みの意味がわからないまま、ミルカさんがチョークを手に取るのを見ていた。
「手を動かさないと始まらないから、とりあえず適当に列\langle C_\alpha : \alpha\in S\rangleをとってきてしまおう。条件(ii)は難しいけど、\alpha上で非有界C_\alphaをとってくることくらいはできるじゃないか。\alphaの共終性は\kappaだから、C_\alphaの順序形は \kappaにできる。条件(ii)を満たすにはC_\alphaは小さいほうがいいのだから、順序形は\kappaということにしておこう。Dが閉だから、C_\alpha\subseteq Dが成り立っていれば、C_\alpha\alpha上の閉胞をとってもまだそれはDの部分集合になる。だから、C_\alphaは閉としても損はしない。」
「でも、それじゃ条件(ii)は満たされているとは限らないじゃない」
「もちろん。まだ候補の段階だからC^0_\alphaと言い直しておこう。もし\langle C^0_\alpha : \alpha\in S\rangleが偶然に条件(ii)も満たしていればそれで証明は終了だ。では、そうでなかった場合はどうしよう。」
ミルカさんはくるりと辺りを見回す。
「条件(ii)が満たされていないのですから、 C^0_\alpha\subseteq Dがどの\alpha\in Sに対しても成り立っていないような閉非有界集合Dがあるんですよね」
「そう。Dではなくて、D_0と呼ぶことにしよう。そのままでは困るからC^0_\alphaを修正して、C^1_ \alpha=C^0_\alpha\cap D_0を新しい候補としよう。これなら条件(ii)はD_0に対しては成り立つ」
「でも、閉非有界集合はまだまだたくさんあるじゃないか」
「それ以前に条件(i)は大丈夫かな?」
D_0\cap\alpha\alpha上で有界だったらC^1_\alpha有界になってしまいますよね」
「そのとおり。だけれども、D_0は閉非有界Sは定常集合だから、定常集合S_1上でD_0\cap\alpha\alpha上で非有界だ。」
D_0\cap \alphaC^0_\alpha\alpha上で閉非有界\alphaの共終性は非可算正則基数 \kappa。なるほど、だから\alpha\in S_1ならばC^0_\alpha\cap D_0\alpha上で非有界になるのか」
Sの一部分は捨ててしまうことになるけれども、そのことは後で考えよう。とにかく、条件(i)はなんとかなりそうだ」
「やっぱり他の閉非有界集合は問題になるんじゃないの?」
「よっぽどの偶然がなければね。やはりすべての\alpha\in S_1に対してC^1_\alpha\subseteq Dが成り立たないような閉非有界集合D_1が存在する可能性は高い。でも、そうしたらまた同じように修正してやればいいだろう。C^2_\alphaC^2_\alpha=C^1_\alpha\cap D_1として定義してやろう。二つの閉非有界集合の共通部分は閉非有界だから、D_1\subseteq D_0を仮定してしまおう。そうすると、C^2_\alpha=C^0_\alpha\cap D_1もいえる。前と同じように、S_2D_1\cap\alphaが非有界になるような\alpha\in Sの集合とすれば、S_2は定常集合だ」
「でも、そんなことを何回繰り返しても条件(ii)は満たされないのじゃないかな」
「2回や3回じゃだめかもね」
「百回やっても一万回やっても一億回やったってだめかもしれないじゃないか」
「じゃあ、無限回やってみたらどうだろう」
「無限回、ですか?」
「そう。任意有限回やってもだめならもっとたくさんやればいい。そして、私たちは無限回の操作を行う方法を知っている」
超限帰納法……」
「そのとおり。もしω回やってだめなら、その次はD_\omega=\bigcap_{n\lt\omega}D_nとしてみよう。 \lambdaの閉非有界集合を{\lt}\lambda個集めて共通部分をとっても閉非有界であり続けることを思い出そう。だから  D_\omegaは閉非有界だ。同じようにC^\omega_\alpha=C^0_\alpha\cap D_\omegaS_\omega=S\cap D_\omegaと定義してやろう。これでもうまくいかなかったら今度はC^{\omega+1}_\alphaだ。」
「ちょっと待って。無限回続けられるのはわかった。でも、やっぱり閉非有界集合はたくさんありすぎるんじゃないか?2^\lambda個あるわけだろう。閉非有界集合を\lambda個集めて共通部分をとれば空集合にだってなりかねない。」
「そこまで行く必要はない。このプロセスを\kappa^+回繰り返したところを考えてみよう。仮定より\kappa^+\lt \lambdaだから、D_{\kappa^+}はまだ閉非有界だ。Sは定常なので\alpha\in SD_{\kappa^+}の極限点となるようなものがとれる。ここで\langle C^i_\alpha : i\lt\kappa^+\rangleのことを考えてみよう。この列について私たちは何を知っているだろう?」
「任意のi\lt\kappa^+に対してC^i_\alpha=C^0_\alpha\cap D_iですよね。D_iが減少列だから、C^i_\alphaも減少列になります。」
「その議論は厳密には正しくない。 D_i\setminus D_{i+1}C^0_\alphaとdisjointかもしれない。その場合にはC^i_\alpha=C^{i+1}_ \alphaとなる。非増加列というなら正しい。」
「あちゃ」
「しかし、実際には減少列になる。任意の i\lt\kappa^+に対して、\alphaD_{\kappa^+}の極限点であることから、D_iの極限点であることも言える。よって、\alpha\in S\cap D_i=S_iだ。私たちが D_{i+1}を定義するときに何をやったかを思い出そう。D_{i+1}はすべての\beta\in S_iに対してC^i_\beta\subseteq D_{i+1}が成り立たないようなものだった。これを\alphaに適用すれば、C^i_\alpha\not\subseteq D_{i+1}だ。つまり、C^i_\alpha\cap D_{i+1}C^i_\alphaより真に小さくなる。ところが、C^{i+1}_\alpha=C^i_\alpha \cap D_{i+1}なのだから、C^i_\alphaは減少列となる。さて、ここで最初の仮定に戻ろう」
「えーと、\kappa^+\lt\lambdaC^0_\alpha\subseteq\alphaC^0_\alphaの順序形は\kappaと。」
「そう、C^0_\alphaの順序形は\kappaだ。これは矛盾していないかな?」
ミルカさんはそう言うと深呼吸をしながら辺りを見回す。僕も深呼吸して考えてみる。
「そうか。\langle C^i_\alpha : i\lt\kappa^+\rangleは濃度が\kappaな集合から始まる長さ\kappa^+の減少列になる。でも、\kappa個しかない元をどういうふうに削っていっても長さ\kappa^+にはならない。」
「そういうこと。だから矛盾する。なぜ矛盾が出たかというと、私たちの帰納法\kappa^+回続くと仮定したからだ。だから、この帰納法は途中で止まる、すなわちclub guessing sequenceが存在する。」
「club guessing sequence?」
「このような列はそう呼ばれている。あの{\aleph_\omega}^{\aleph_0}\lt\max \{\aleph_{\omega_4}, (2^{\aleph_0})^+\}を証明するための鍵のひとつだ。内部モデル、強制法や巨大基数といったZFCに新たな公理を付け加える研究が盛んだった中、ZFCという公理系がすでにそのモデルの中に美しい構造を持たせていることを明らかにしていった、Shelahの研究の成果の一つだ」
そういうと、ミルカさんは窓の外を見る。
「世界は無秩序に広がっているように見える。私たちが何かを作らなければ、だだっ広く続いているだけに思えるかもしれない。でも、ほんのちょっと見方を変えて、ほんのちょっとアイデアを出して、ほんのちょっと辛抱強く見ていけば、本当は楽園が、カントールの楽園が広がっているかもしれないんだ。」
僕は圧倒されつつミルカさんの視線の先を追ってみた。そこにはいつもの夕暮れが見えるだけだったのだけれども。