連続体濃度がアレフ2より大きくなって欲しくない理由
はてなの続き。
最初に断っておくと、Woodinなどがをプッシュしている理由は今回書くものよりもはるかに高度なものです。まあ、よく知られている現象ということで。
えーと、脚注についているのは同業者じゃないとわからない内容だと思うのでわからなくても無視してやってください。
countable support iterated forcing
強制法を繰り返し使うことをiterated forcing(逐次強制法?)と言います。例えば、Martinの公理の証明などは典型的な例ですね。その中でもproper forcingのcountable support(CS) iterationというのが、実数の性質を変える場合にはよく使われます。まあ、実数に関する整合性証明の9割方はこれでしょうか。
ところが、この方法を使うと連続体濃度は常に以下になってしまうのです。通常はですね。*1
んなもん単に技術的な問題だろうって言われそうですが。でも、連続体濃度がでしかも面白い性質を持つモデルを作ろうとすると、毎回毎回難しい議論をやる羽目になります。*2
というわけで、「これだけモデルを作るための難易度が違うということは、やっぱり連続体濃度はが自然ってことなんじゃないの?」って思う人が多いです。まあ、Shelahとか、あと聞くところによるとBrendleなども、「んなこたーない。まだ私たちが持っている技術が足りないだけだ」と言い切っているようではありますが。
強制法公理
強制法に使うことができる半順序集合をforcing notionと言います。そして、「○○という性質を持つ全てのforcing notion Pに対して、もしがPのdense subsetの族で濃度がなものだとするときに、-generic filterが存在する」という形の公理を強制法公理と言います。もっとも典型的かつ有名なのはで、これは○○に「可算反鎖条件(ccc)」を入れたものです。
より強い強制法公理もよく研究されています。一番よく使われているのはProper Forcing Axiom(PFA)でしょう。○○にpropernessという性質を入れたものです。propernessの定義は省きます。PFAを仮定すると、数多くのよい定理が証明できることが知られています。
これは長い間未解決だったのですが、数年前にTodorcevicがPFAが成り立つならば連続体濃度はとなることを証明しました。ついでに言えば、もです。
さらに、bounded forcing axiom(有界強制法公理?)というものも最近よく研究されています。それぞれに強制法公理に対して対応するboundedな強制法公理を定義することができ、元の公理より弱いものとなります。例えば、PFAに対してはBounded Proper Forcing Axiom(BPFA)など。
これも数年前ですが、Justin MooreがBPFAからもとなることを証明しています。BPFAはPFAよりもはるかに弱い仮定であることが、Schindlerなどの研究でわかっています*3
という感じで、成り立って欲しい定理を証明させてくれるPFA、もしくはそれより弱いBPFAから連続体濃度がとなるわけで、「いい感じのZFCのモデルでは連続体濃度はなんじゃない?」って気がしてくるわけです。
まとめ
- 連続体濃度が以上にしながら、他の命題を成り立たせるのは難しい
- 自然そうに見える仮定から連続体濃度がであることが証明できる
最初に断ったとおりに、Woodinが連続体問題を解いたって言った場合の議論はこれよりはるかに高度なものですので、これだけ読んで非難することはないようにお願いいたします。ただ、連続体濃度がになるべきだと言われたときに、上記のような状況証拠からして「まあ妥当かな」と思う集合論者が少なからずいるのは確かです。