半年後にコメントに反応してみる

えーと。更新頻度が低すぎてRSSにでも登録しない限り絶対に見ていられないといううわさのこのブログでありますが。 http://d.hatena.ne.jp/kururu_goedel/20061110/1163139074#cにつけられたこのコメントに対してエントリを立てるといってからもう半年以上たっているわけでして。

集合論ゲーデルあたりから、集合論の専門家の為の集合論になってしまっているように思われる。丁度、日本国憲法憲法学者の飯の種になるように・・・。
代数学集合論の上に成り立っているが、集合論の新発見によって現実世界に何か反映されたということをあまり聞かない。確かに理論(数学)は実践
より早いが、それでも数学の基礎を成している集合論の変革ならば、もう少し全体(他の数学・科学分野)に影響が出ていい。ということを考えると、「集合論の進むべき方向進むべき方向が間違っている」可能性があるのではないか?

Better late than neverってことで書いてみます。
集合論の専門家のための集合論になって」云々というのは、確かに耳の痛いところなわけなんですが、「ゲーデルあたりから」ということになると、 SolovayのLebesgue測度に関する結果とか、Suslin問題の解決とかのようなものですら含まれてしまいます。そのあたりですら「専門家のための」定理とされてしまうなら、もうそれは数学に対する見方が違いすぎるとしか言えません。
でも、1970年代以降くらいというのなら、そういう傾向は確かにあって、ゲーデルも「cabal」という言葉を使って評したそうです(松原先生の "Non-stationary idealとuniverse of sets"より)。むしろ、ゲーデルが表舞台から去って、ShelahやWoodinなどによる爆発的な進歩が始まった後に、非専門家を置き去りにするような流れができたのではないかと。
ただ、他の科学分野はともかく、他の数学の分野への応用は知られていないだけで結構やられているのではないかと思うのですが。Shelahは群論のモデルのことをかなりやっていますし、Eklofは「Almost free module」なんて本も出していますし(内容はよく知りませんが)、一般位相幾何学では集合論はなくてはならない存在になっていますし、順序集合に関してもJ.Mooreのfive element basisなんてとても面白い結果が出ましたし、S.TodorcevicやI.FarahによるC*-algebraの研究は最近ホットな話題です。特に最後の二つなどは、今世紀に入ってようやく出てきたものです。私としては、進むべき方向が間違っていたわけじゃないと思うわけです。ただ単に、他の分野へも本質的に役に立てるようになるまでに100年くらいかかったと。100年というと長いですが、集合論が発展し始めたのは1970年代くらいからなので、実質的には30年くらいでしょうか?数学の歴史から見ればほんの短い時間です。その時間が、集合論が成熟するのに必要だっただけじゃないのかなと。整数論が生まれてからその応用が発見されるまでに何年くらいかかってますか?
とはいえ、知られていないこと自体が問題なわけですが。一般の人とか他分野の数学者にわかってもらうための努力が足りなかったんじゃないかといわれればそのとおりなわけで。そのコミュニケーションギャップを埋めたいと思ってはじめたのがこのブログなわけです。その割には更新が少なすぎますが(笑)。もしかしたら、今度サーベイ書かせてもらえるかもしれないので、自分なりに最近の集合論の成果をわかってもらうべくがんばってみます。