id:taroleoさんのエントリに関すること続き

もうすでにいろいろな人がそれぞれの立場から書いてくださっていて、まああんまり付け足すこともないのですが。

大元: ユビキタスの街角: 論文査読の落とし穴
taroleoさん: Leo's Chronicle: 論文の先にあるもの
私の反応: 実用性のない研究をそこまで全否定しなくても… - くるるの数学ノート
かがみさん: 2009年4月
はやしさんの昔の記事: はやしのブログ ものを考えたり知ったりすることはおもしろい。, はやしのブログ 役立たず万歳!
てなさくさん: て日々(2009年4月7日(火))
住井さん: Twitter / esumii: 私はいつも、例えばニュートンとかユークリッドとかの研究が当時 ...

まず、id:taroleoさんの記事に関しては、「実用」「役に立つ」という言葉の解釈の違いから誤読していたということで了解*1。私たち純粋数学の研究者は日頃から、「そんなことを研究してなんの役に立つのか」「実用性に欠ける」というなことを言われ続けているので、そう思わないといわれてしまうとちょっとびっくりします。っていうか、言われ続けているだけではなく、少なからぬ人たちが自分の研究がいかに役に立たず実用できず世の中に影響を与えないかということを自慢しているわけでして(爆)。はやしさんのはやしのブログ 役立たず万歳!を参照のこと。『放浪の天才数学者エルデシュ』でも誰だったかが整数論をやっていて「俺の研究が世の中に役に立つことなんてありえないぜ」とか言っていたのが、暗号関係で応用されるようになってしまったとかいう話が出ていましたね。
脱線。
その点を除いてしまえば、あとLeo's Chronicle: 学生を成功に導くアドバイス - Ullman先生からのアドバイスの方もあわせて読めば、私が常々考えていることとあまり違いはないのですよね。「解ける問題」「受理される論文」を重視しすぎて、大きな目標のない研究に陥ってしまうのは避けるべきだと思います(うわー、耳がいてー)。私たちはbig pictureということが多いですが、一つ一つの論文では到達できないにしても、どういう目標が背景にあるのかは常に考えておくべきでしょうし、それは論文にもきちんと書いておくべきでしょう。ついでに言えば、それがないとプロポーザルとかを書くときに困りますから。id:taroleoさんがおっしゃっているのがそういうことならば、なにも反論することはありません。

とりあえず、私たちは世界中の数少ない誰かが喜ぶ「面白さ」というのと、工業製品などに応用されてそれなりの人数の人が恩恵を蒙る「実用性」というのを違う軸にとって考えることが多いです。そして、「実用性」がないということを引き合いに出されて大学内の他の学科に比べて不利な扱いを受けたり、プロポーザルを批判されたりするわけです。だから、それに対してなんと答えるべきなのかというのは考えざるを得ないわけですよ。
実際問題として、私たちの研究では何が最終的に実用的だったり便利だったりするようになるのかは見当がつかないわけです。数十年ならまだしも、数百年後のことは普通予想できないですよ。だから「どのように世の中にインパクトを与えることが出来るか」を考えることはほとんど不可能なのです。それじゃあどうすればいいかというと、もちろんわからないのですが。私の感想としては、各研究者の知的興味に任せてとりあえず人間がわかることを増やしていくしかないのだろうと思うわけです。
ただし、ここで問題なのは、私どもがお金を税金や学費からいただいているということでして。私たちがやっていることがそれに見合ったことなのか、それを実際にお金を出してくださっている方々に納得してもらえるのかってのはあります。てなさくさんが書いてらっしゃるのもまさにその辺のことですよね。私としてもとても共感できる文章です。
まあ、納得してもらえないことの方が多いかもしれませんが。少なくとも私たちが出来るのは、天地神妙に誓って自明でなく面白いことだと自分で信じられることを研究することだと思うわけですよ。世界中の数人にさえ今の時点では面白がってもらえなくても(あー、さすがにその場合には少し自問自答したほうがよいかもしれませんが)。現時点で価値がはっきりしないことをやらせてもらっている以上、そのルールだけは外さないようにしていきたいと思っています。
…その上で、最低限の論文数は稼ぐ小手先のテクニックはまあ使うにしても。

なんて書いている暇があったら仕事進めてくださいって感じですが。ビール飲みながら書いたので散漫ですが、とりあえず。

*1:もっとも、私たちの研究の役に立たなさの程度を理解していただけていないのかなとも思うわけですが。他の純粋数学の分野の人に「そんなことやっていて何の意味があるんだ」とか言われてしまうレベル。それはちょっとイヤなので、集合論を数学の他の分野に応用する研究が進んでいるところです。