もう少し詳しく書いてみる(その2)

もう少し詳しく書いてみる(その1) - くるるの数学ノートの続き。

今考えているのは、以下の予想の反例です。

κを無限基数とする。自己稠密で、最大元、最小元が存在せず、濃度がκの稠密集合を持ち、cut-completeで、濃度が2^\kappaな全順序集合は同型を除いてひとつしかない。

簡単のために、全順序集合Xが自己稠密で、最大元、最小元が存在せず、濃度がκの稠密集合を持ち、cut-completeで、濃度が2^\kappaであるとき、Xは(*)_\kappaを満たすということにします。前回やったのは、(*)_\kappaを満たす全順序集合R_\kappaが存在するということでした。
Rを実数全体の集合とします。本当はBlackboard Boldで出したいんですが、はてなじゃ出せないようなのでこのままで。もちろん順序は普通の順序を入れます。
ここで、XをR_\kappa\cup\{0\}\cup Rとして定義します。以下のようにX上に順序\lt_Xを入れます。f, g\in Xに対して

  1. f, g\in R_\kappaかつf\lt gならば、f\lt_X g
  2. r, q\in Rかつr\lt qならば、r\lt_X q
  3. 任意のf\in R_\kappaに対して、f\lt_X 0
  4. 任意のr\in Rに対して、0\lt_X r
  5. 任意のf\in R_\kappar\in Rに対して、f\lt_X r

つまり、R_\kappaが最初、次が\{0\}、次がRという順番に並べて、それぞれの中では元からの順序を使うってわけです。というわけで、全順序集合 - くるるの数学ノートではR_\kappa+1+Rと表記していました。これが(*)_\kappaを満たすっていうのは一つ一つチェックすれば簡単です。真ん中に挟まった0はcut-completeであることを示すのに必要。

さてと。問題なのはR_\kappaとXがisomorphicかってことです。\kappa\geq\aleph_1とGCHを仮定すると、これは以下のように簡単に否定できます。
まず最初に、R_\kappaの全ての元と元の間には2^\kappa個の元があることを証明します。f\lt gが共にR_\kappaの元だとします。\alphaf(\alpha)\neq g(\alpha)となるような最小の元とします。f\lt gの定義により、f(\alpha)\lt g(\alpha)R_\kappaの定義により、g(\beta)=1となるような\beta\gt\alpha+1が存在します*1。そのような\betaで最小なものをとってきます。
ここでt:\beta+1\rightarrow 2を以下のように定義します*2t|\alpha=g|\alpha、任意の\alpha\leq\gamma\lt\betaに対してt(\gamma)=0、そしてt(\beta)=0。すると、任意のh\in R_\kappaに対して、もしh|(\beta+1)=tならば、f\lt h\lt gが成り立ちます。
ふぅー。要するに、fとgの間に入るようなtをとってきてしまえば、それ以降はどうやって伸ばしてやってもfとgの間に入るってことです。んでtを伸ばす方法は2^\kappa個ありますので、fとgの間に入る元は2^\kappa個あるわけです。
r\lt qを実数とします。これらをXの元として見ても、rとqの間に入る元は全て実数です。というわけで、高々連続体濃度個ですね。というか、まさに連続体濃度個ですが。ってわけで、R_\kappaとXがisomorphicならば、2^\kappa=2^{\aleph_0}ということになってしまいます。GCHを仮定すれば、これはすなわち\kappa=\aleph_0を意味することになって、仮定と矛盾します。
というわけで、GCHを仮定すると(*)_\kappaを満たす全順序集合はユニークでないということがわかります。

自己稠密って言うのは、全ての元と元との間に何か元があるって言うことです。そこから簡単に、全ての元と元の間には最低でも可算無限個の元があることが証明できます。cut-completeまで含めれば連続体濃度個ですね。上の反例が示しているのは、これが十分でないっていうことです。全順序集合の濃度を上げた場合には、自己稠密の概念も濃度をあげたものでなければならないわけです。

それでは、自己稠密を「元と元の間には2^\kappa個の元がある」と変えればそれで上記の予想が成り立つのか、ということが問題になります。それはまた次回に。

*1:途中からずっと0になるような関数は削ったので

*2:\beta+1=\beta\cup\{\beta\}ってことに注意。集合論者にとってはあまりにも自然かつ当たり前なので、普通の人たちに説明し忘れることが多い…