なぜωは偶数か
うわ、結城さんにお願いされてしまってます。日記は楽しく拝読しています。プログラミングのことはよくわかりませんが、作業への取り組み方などがとても参考になります。
追記:はてなブックマークに「集合論者にとってはωは偶数なんですが。」というコメントが。そ、そうなんですか。解説お願いします。すごく知りたい!
単に、(普通の)集合論者相手なら、even ordinalやodd ordinalが何を指すのかはたいてい共通認識があって、(おそらく公式に定義されているわけではないけれども)問題なく通じるということなのですが。「集合論では」と書いていないことに注意。
なぜそう認識しているかという部分を書いてみます。自然数に関しては、「2で割り切れるのが偶数」というのが普通の定義だと思います*1。nが非0なmで割り切れるというのは、n=mkとなるような自然数kが存在することと定義できますね。
復習しておくと、順序数に対しても超限帰納法を使って掛け算が定義できます。
- α0=0
- α(β+1)=αβ+α
- βが極限順序数のとき、αβ=
注意しておかなければいけないのは、この掛け算は可換ではないということです。
例えば、
ですが、
となります。
そして、順序数αが順序数βで割り切れるというのを、α=βγとなるような順序数γが存在することとして定義します。これは自然数上の「割り切れる」という概念の拡張になっていて、それ以外の意味でも自然なものとなっています*2。
この定義を使って、順序数αが偶数であるということを「αは2で割り切れる」で定義しましょう。この場合、ω=2ωなのでωは偶数ということになります。そしてω+1は奇数(偶数でないのは奇数ってことで)、ω+2は偶数、ってふうに続いていきます。
もしこれがいまいち腑に落ちない場合には0のことを思い出してみましょう。0=α+1となるような順序数αは存在していませんので、0は極限順序数です*3。そして、0は偶数ですね。そう考えてみれば、極限順序数を偶数と考えるのは自然です。と思えませんか?
もっとも極限のところではいろいろとややこしいことが起きることも多いですし、この偶奇の定義が常に完璧だというわけでもないですが。とりあえず私が集合論者同士でeven ordinal云々と言った場合には上記の意味ですし、それで今まで困ったことはないということで。