SMNさんのコメントへの回答その2

こちらにあるSMNさんのコメントに対していくつか。もうコメントを書くつもりはないとのことなので、あまり細かく突っ込まずにざっとで。権威が云々と言う件に関しては権威? - くるるの数学ノートに書きましたので、それ以外。

最初に言っておくと、私個人としては渕野先生の文章を全体的には支持しています。渕野先生の個人的な意見に全て賛同するわけでもありませんし、私には確認できない事実に関してはなんともいえません(「あやしげな博士論文」の話とか)。微妙な言い回しに関して趣味の問題ともいえるような指摘をしているのはご本人も書いているとおりです。しかしながら、少なからず意味がわからなくなるような誤訳があることを、意味の通る訳と共に指摘しているのは確かですし、必ずしも全面的に賛成できなくとも読んでためになる文章であると私は思います。少なくとも、彼の一人相撲であったというSMNさんの意見には同意しません。

私は、他人の文章を批判する文章を公開する以上は(私的なページであっても)批判先に求めている同じ基準で批判されるべきであると考えておりますが、kururuさんはそうではなく私的に発表した文章に出版物と同じ基準を求めるべきではないとお考えのようです。

いや、そうではなくて。批判するのは自由だと思います。言論には言論で対抗するべきだと思います。SMNさんが彼の文章をどう批判しようがかまいません。それは他の人のためにもなると思います。ただし、「こんな不正確な文章は公開すべきでない」「批判なしでの紹介もするべきでない」などと仰るのなら、それは私的に発表した文章に要求するレベルではないと言うことです。例えば、出版されたものに「連続体問題はヒルベルトの第2問題である」と書いてしまったら「くるるは数学者として文章を書くのに最低限の努力もしていない」と非難されても仕方ないと思いますが、ブログに書いたんだったら「あー、こいつバカだな」程度のリアクションに抑えてほしいとか、まあそういう話です。

仮定といいますか、普通に渕野氏の文章を読めば「自分の意見を絶対だ」と思っている(表向きはそんなことは絶対言わないでしょうし、形だけは「そうではない」と言っているようですが)という印象を受けるのではないでしょうか。

どうでしょう。そのような印象を受けた人がいたならば、コメントなりはてブなりで表明してくださるとありがたいのですが。身近に日本語を読めて数学に拒否反応を示さない人がいないので、聞いてみるってのは無理です……。

ちなみに、ツェルメロより先にブラリ・フォルティが集合論の公理化を行ったという訳についてですが、[K]の訳にそれほど問題がある訳ではなく、渕野氏の批判は行き過ぎに思えます。

いや、それはないでしょう。公理化(axiomatization)という言葉が数理論理学的にはっきりとした意味を持つ以上、そのレベルには全く達していないブラリ・フォルティの提案をもって「公理化をしている」と書くのは完全な誤訳です。彼がやったのは、いくつかの公理の候補を挙げたことだけで、公理系を提示することではありませんでしたしその意図も持っていなかったわけですから。原文もとてもはっきり書かれていると思うのですが。

というより、それならば aurelianoさんの文章をそれくらい好意的に解釈してみてはどうでしょうか?

渕野先生は自分の責任の下に全てを述べているのに対して、id:aurelianoさんはゲーデルがやったこととして提示している(ように解釈できた)ので全然違います。あからさまな間違いを指摘するときに、ついでにより微妙な問題にも触れることがそこまで不自然だとは思いません。

最適かどうかはさておき「数学的に興味深い」よりも「数学的に意味のある」がより適切である、という理由は何もないように思います。

私がすでに述べたとおりに、私はあると思います。この集合を「数学的に興味深い」と思っていた人は当時ですらほとんどいなかったでしょう。そうではなく、ほとんどの人はユニバースに当たり前に存在しているべきごく普通の集合だと思っていたのだと思います。

もし「意見が分かれるところ」というのがkururuさんのご意見ならば、以降の渕野氏の主張を批判するのが自然ではないでしょうか?

[K]による訳を全部読んでいない以上、誤訳の傾向を把握することが出来ませんし、ここは判断がつきかねます。一つ一つは許容範囲だったとしても、全体としてmisleadingなものとなっているのならば、それは当然批判しても良いことだろうと思います。いずれにしても、あからさまな間違いがない以上、id:aurelianoさんのケースとは全く異なります。

また長々書いてしまいましたが。渕野先生の文章が説得力のあるものかどうかは、全文読んでいない上に英語もさしてうまくない私の言うことを聞くよりは、元の文章を読んで自分で判断されるのが良いかと思います。

P.S. 全然ざっとじゃないよ、おい。