もう少し詳しく書いてみる(その1)

全順序集合 - くるるの数学ノートをもっと丁寧に書いてみます。

発端は以下の有名な定理です。

自己稠密で、最大元、最小元が存在せず、可分で、cut-completeな全順序集合は同型を除いてひとつしかない。

定義をちゃんと書いておきます。全順序集合(totally ordered set)というのは、推移律、反射律、反対称律を満たすような関係\leqをもつ集合で、どんな二つの元x,yをとってきても、x\leq yまたはy\leq xが成り立つようなものをさします。線形順序(linearly ordered set)って言う場合も多いですね。x\lt yは当然ながらx\leq yかつx\neq yの意味です。
全順序集合Xが自己稠密(self-dense)というのは、全てのx, y\in Xに対して、x\lt yならば、x\lt z\lt yとなるようなzが存在することを言います。
自己稠密な全順序集合Xの部分集合Dが稠密(dense)であるとは、全てのx, y\in Xに対してx\lt yならば、Dの元dでx\lt d\lt yとなることを
言います。自己稠密でなくても定義できますが面倒なのでしません。開区間を基とするようなトポロジーを定義したときに、その上での稠密性と一致します。
可分(separable)というのは、可算稠密集合が存在することを言います。
YがXの部分集合でxがXの元だとします。xがYの上界であるとは、全てのYの元yに対してy\leq xが成り立つことを言います。下界の定義はy\leq xx\leq yにすれば得られます。xがYの上限であるとは、xがYの上界でありかつ全てのYの上界x'に対してx\leq x'が成り立つことをさします。下限は上下をひっくり返せばオッケー。
cut-complete(単に完備でいいんですか?)というのは、全てのXの部分集合Yに対して、もしYが上界を持つなら上限を持つことを言います。

ふぅ。まあ、ご存知の方も多いと思いましたが一応やっておきました。んで、同型を除いてひとつしかないこの全順序集合はもちろん実数全体の集合です。
上記の定理の証明は、Kunenなんかでも練習問題だったので、ここでも練習問題ということで。学部生のとき宿題に出て、標準的な証明を自分で思いついて面白い論法だなぁと思って発表したら、「こういうのをback-and-forth argumentと言って、モデル論なんかではよく使うんですよ」と言われてちと凹んだのを覚えています。

イガさんが考えた命題は、これを大きい基数に拡大したものです。上の表現と対応するように書き直すと、

κを無限基数とする。自己稠密で、最大元、最小元が存在せず、濃度がκの稠密集合を持ち、cut-completeで、濃度が2^\kappaな全順序集合は同型を除いてひとつしかない。

ひとつは存在する、っていうのは簡単に証明できます。{}^\kappa 2で、κから2への関数全体の集合を表します。っと、順序数はフォン・ノイマン式なので、それより小さい順序数全体と同一視されています。つまり、fが{}^\kappa 2の元であるとは、fがκより小さい順序数それぞれに対して0か1を対応させるような関数であることと同値です。
{}^\kappa 2に辞書式順序(lexicographical ordering)を入れます。すなわち、f\lt gとなるのは、f(\alpha)\neq g(\alpha)となるような最小のαに対してf(\alpha)\lt g(\alpha)となるときです。
困ったことに、{}^\kappaには最大元(全てのκの元に1を対応させるもの)と最小元(0を対応させるもの)があります。というわけで、それは取り除きます。
また、tを\alpha\lt\kappaから2への関数とします。このときfをf|\alpha=tかつf(\alpha)=0かつ全ての\beta\gt\alphaに対してf(\beta)=1で定義します。またgをg|\alpha=tg(\alpha)=1、全ての\beta\gt\alphaに対してg(\beta)=0で定義します。そうすると、fとgの間には元がありません。というわけで、この順序は自己稠密ではありません。それはいやなので、このようなfとgは同一視します。…という曖昧な言い方はやめてfの方を削っちまいますか。そうすると、自己稠密な全順序集合が得られます。まあ、実数の場合に0.999…と1を同一視するのと同じです。
というわけで、R_\kappaを、{}^\kappa 2の元fで

  1. f(\alpha)=1となるような\alpha\lt\kappaが存在し、
  2. 全ての\zeta\lt\kappaに対して、f(\alpha)=0となるような\zeta\leq\alpha\lt\kappaが存在する

ようなもの全体として定義します。そうすると、最大元も最小元も持たない、自己稠密で、cut-completeな全順序集合となります。cut-completeは練習問題で。
fをR_\kappaの元で、全ての\zeta\lt\kappaに対してf(\alpha)=0となるような\alpha\gt\zetaf(\beta)=1となるような\beta\gt\zetaが存在するようなものとします。まあ、途中から答えが一様にならないような関数ってことです。
tを\alpha\lt\kappaから2への関数とします。このときにf_t\in R_\kappaf_t|\alpha=tかつ全ての\beta\geq\alphaに対してf_t(\beta)=f(\beta)として定義します。そうすると、このように構成されたf_tからなる集合DはR_\kappa上で稠密なことがわかります。Dの濃度は\sup_{\lambda\lt\kappa} 2^\lambdaとなり、一般連続体仮説を仮定すれば\kappaとなります。

簡単と言った割には長くかかりましたが、まあわかってしまえば自明です。問題はこれがユニークでないってところなわけですが、それは次回にということで。