理解

「数学を理解する」という言葉を聞くたびに思い出すエピソードがあります。まだ私が大学院生だった頃、集合論のとある概念に関する院生による輪読セミナーがありました。そのセミナーが一段落したところで師匠が「これについては本当に理解したいと思っているんだ(I really want to understand this)」と言ったんです。これを聞いてとても驚いた覚えがあります。
集合論のメジャーな概念の中でも最も取り扱いが難しいものだと知られているものではあるのですが、それでも私の師匠はその概念を使った論文を最初に応用した論文を書いた人ですし、最もその概念について精通している人の一人として知られていたわけです。事実、他の人からも何度も質問を受けていました。にもかかわらず"want to understand"と言っていたわけで。
「ああ、軽々しくものを『理解した』とか言うもんじゃないんだな」と思ったものです。