3時間でわかった気になる強制法(その1-3)

さてと、そんなわけでZFCのモデルV上に、推移的で可算無限濃度をもちZFCのモデルになるような集合Nが存在する、というところまで来ました。

本題に入る前にスコーレムのパラドックスのことを少し書いておきます。NはZFCのモデルなので、N上で非可算な集合があるわけです。例えば(\omega_1)^Nとか。でも、Nは推移的なので(\omega_1)^Nの元は全てNの元、Nは可算なので(\omega_1)^Nは可算になるわけです。これがおかしくない理由は、「でも」以降の議論はVで行われているので、(\omega_1)^Nが可算であるというのは、V上で可算だということに過ぎないんです。
いうなれば、小さいモデル上ではものさしが小さくなってしまうので、Vという大きいモデルでは可算だったはずの順序数が、N上では可算非可算になってしまうことが十分にあり得るわけです。

それならば。Nが持っている小さいものさしではかれば、Vの中に存在する実数の集合はとてつもなく大きな濃度をもって見えるはずです。それなら、NにVにある実数をばしばし付け加えてやればいいじゃないか。N\cup\mathbb{R}でどうだ!!

よくないです。全然良くないです。N\cup\mathbb{R}はZFCを全く満たしていません。

それじゃあ、N\cup\mathbb{R}がZFCを満たすために必要な元をがんがん付け加えてやればいいじゃないか!…これもうまくいきません。そもそもZFCを満たすように拡張できるかさえ私にはちょっと自信がないのですが、それが出来たとしてももう他に重大な問題があります。N\cup\mathbb{R}を含むような集合N'でZFCのモデルになるようなものが存在したとしても、そのN'上のものさしはモデルを拡大したのに伴って大きくなってしまっているかもしれないし、そうなるとN'上からでも\mathbb{R}の濃度は\aleph_1になってしまっているかもしれません。
\mathbb{R}なんて大きなものを付け加えようとしたからダメなのでしょうか?例えば、\mathbb{R}の可算部分集合だけれども、Nのものさしで見れば\aleph_1よりも大きく見えるようなものを付け加えれば大丈夫なのでしょうか?*1そういうものでもないんです。実数rを一個付け加えるだけでも、N\cup\{r\}をZFCを満たすように拡張したらNの構造がずたずたに壊れてしまう可能性があります。*2
それでは、N\cup AをZFCを満たすように拡大してもNの構造はあまりひどくは崩れないけれども、そのNの拡大のものさしで見てやれば濃度が\aleph_2以上になっているような、そういう実数の集合Aを見つけることはできないのでしょうか?

現代的な立場から見れば、これを可能にするのがまさに強制法という手法です。まあ少々独特な見方ではありますが、まあ強制法を分かっている人がこれを聞けば、「そういう見方もできるかもね」くらいの反応はしてもらえると思います。多分。

これで最初の1時間は終了。次回は、強制法ではこの困難をどのように解決しているのかを書こうと思います。

*1:そもそもNの中に無い元を含む集合の濃度をN上ではかることはできないのですが、まあそのへんはなんとなく誤魔化されてください。

*2:(N, \in)の構造をコードするような実数をrとしてとればそうなりますよね。